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「現代型うつ病」って何?(2011年1月掲載)

2011年1月

最近、マスコミなどで「現代型うつ病」という言葉が取り上げられることがあります。「新型うつ病」などという表現もあるようです。精神科医師がこの言葉を使う時には「いわゆる現代型うつ病」などのように構えた表現をすることが多いようですが。

病状としては、依存性が強く、未熟な性格で気配りに乏しい若い人達がうつの症状を起こすことが共通しているようです。ただし、それ以上の実態は明らかでなく、言葉の一人歩きではないかという批判もあるようです。少なくとも一部は躁うつ病の仲間だろうという指摘はなされたようですが、全体の実態は不明で、Aさんが言う「現代型うつ病」とBさんが言うそれは別のことだったりするようです。

私はこの言葉を聞く度に「ぬえ」という言葉を連想します。「ぬえ」とは伝説上の怪獣で頭は猿、胴は狸、尾は蛇、手足は虎に似ているもので平家物語に出てくるそうです。私はこの「現代型うつ病」という言葉は、実態はまだキチンと整理されていない複数の病状に、たまたまマスコミ受けする名前をつけたので、やたらと、もてはやされているだけのような印象を強く持ちます。

さらに、ある心配を持ちます。それは現在の精神医療における「うつ病」概念の混乱に拍車をかけるのではないかということです。うつの症状を起こす人の全てが脳に特有な変化を生じ、同じ抗うつ薬で治療可能なわけでは決してありません。病状により、カウンセリングや生活環境改善、本人の自己トレーニングなどにより、初めて、うつが改善可能な人達もいます。このような人達に、安静にして抗うつ薬を服用させても効果がないばかりか、かえって事態を混乱させてしまうだけになってしまいます。これらの人達が、この実態がまだ固まっておらず、なかなか魅力的な用語の「現代型うつ病」と名付けられ、うつ病に関する社会的混乱を助長するのでは、ととても心配しています。

読者の皆様にぜひお願いしたいのは「現代型うつ病」という言葉を聞いたときには、素直に納得しないでいただきたいことです。専門の研究者達が、これからその実態に関して明らかにし、「ぬえ」の正体が猿なのか、狸なのか、蛇なのか、虎なのか、決着がつくまでそっとしておく必要があると思います。医療の専門家の皆様にもお願いします。この言葉は内容がまだ不明瞭です。実際の臨床上の診断名として使用することはぜひ控えていただくようお願いします。うつ病概念による混乱により、精神医学への信頼が少し弱くなっているようにも思える現在、この用語による混乱をさらに重ねることは何とか避けたい、そのように強く願っております。

図:「現代型うつ病」って何?

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