患者の皆様へ
patient
家族の想い(2017年8月掲載)
ここ、しばらくご無沙汰しておりました。今回は趣(おもむき)を変えて、ご家族の気持ちについて感じた事をご紹介します。
私は、長年、精神科医をしていますが、年とともに強くなっていくのは、「ご家族はえらいなー」という気持ちです。当然、病気にかかったご本人も大変な苦しみを耐えています。症状そのもののつらさ、療養に専念するために社会参加できない寂しさ、療養に伴う生活の制限、世の中の一部の人から向けられる偏見など、数え上げればきりがありません。しかし、毎日の診察を通じて感じるのは、患者さんご自身とともにご家族も苦労している事です。
日本社会も進歩し、精神障害を持つ人達への偏見もずいぶん少なくなってきたと思います。良いことだと思います。ただ、身内に精神の病を持つ人がいるご家族への苦労についての理解が、今一つでは無いでしょうか。もちろん、どんな病気にしろ、患者さんのご家族は苦労なさっています。療養に協力するための生活の制限、経済的心配、実際の看護の疲れなどは共通するものでしょう。ただし、精神障害については、世の中の偏見との闘い、動揺する患者さんとの応対なども更に加わるのでは無いでしょうか。
その中で、今回、一つだけ、強調したい点があります。それはご家族の中で、特にお母さんの立場の人達の気持ちです。献身的なお母さん達と時々お会いしますが、よくお話を伺うと、「自責」の気持ちを持つ人が結構います。つまり、「私の育て方が悪かったから、この子を(精神科の)病気にしてしまった」、「この子が病気になったのは私の育て方が悪かったからだ」、「まだまだ、(介護についての)私の努力が足りないのだ」などの想いを心の底にひっそりと持ちながら、一生懸命、子どもさんの世話をしているお母さんがいます。私は、そのようなお母さん達と会うと、つくづくお気の毒に感じてしまいます。
医師の立場から見ると、そのようなお母さん達が病気の原因になっていることはまずありません。多くは生物学的原因などによる偶然の産物に近い原因です。ですから、客観的にはお母さん達がご自分を責める必要は無いのです。しかし、そう説明しても、それでも「私がもっと丈夫な子に育てればよかった」とご自分を責め続ける方もいらっしゃいます。
この文章を読んだご家族にアピールしたいと思います。ご家族の病気が自分のためになったと自分自身を責めていませんか?もし、そうなら、最後にもう一回、強調します。自分を責める必要はありません。毎日、淡々と療養に協力していく、それだけで十分なのです。
そう言っても、ご自分を責める気持ちが続く方もいらっしゃいます。それは仕方が無いと思いますが、少なくとも、事実関係ではその必要は無いだろうという事を覚えていて下さい。時には自分のための息抜きの時間も必要です。一度、考えてみていただきたいと思います。ご検討を御願いします。