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診断について
精神障害を診断する際の基本的作業として「状態像診断」をまず行うことが必要です。人が精神変調を来す際には、あらゆる以上の形があるわけではなく、どのような異常パターンとなるか、その際には、どのような見かけを呈し、どのような言動を生じるか、いくつかの型に普通分けることができます。この一つ一つの型(類型)のことをまとめて状態像と呼び、具体的なそれぞれの状態像をうつ状態、幻覚妄想状態などと○○状態という呼びかたをします。別の表現で症状群と言う呼びかたもあります。この場合は状態像のようにある1時点での横断的な症状の集まりを呼ぶこともありますが、より広く、経過や予後まで含んだ使いかたをする時も多いようです。
代表的なものを挙げます。
- (1)うつ状態:抑うつ気分(重苦しく、さえない気分)、制止(疲れやすさ)、不安・焦燥、悲観的思考内容(物事を悲観的に考え、将来や自分の能力への自信を失う)などの成分からなります。いわゆる内因性(遺伝要因などからなる自発的な神経伝達物質の異常によるという意)、外因性(脳器質性や症状性)、心因性(ストレスに対する反応。通常の「落ちこみ」の極端な場合)の多彩な要因で生じます。人は本来、憂うつになりやすいものです。精神内界の表出(心を外に表現する意)が減りますので、背景に幻覚・妄想などがかくれていないか確認が必要です。
- (2)躁状態:爽快気分、意欲の高進(例1日中、疲れを知らず、2時間しか眠らなくても平気)、刺激性(些細な事で怒る)、楽観的、誇大的思考内容などからなります。通常は内因性か外因性とされます。心因性は考えがたいと思います。
- (3)混合状態:不機嫌、意欲の高進、強い刺激性(躁状態の時には本人の意に沿わないこと言うと怒り出しますが、混合状態は初めから機嫌が悪いのが特徴です。なお、最近の考えかたとして混合状態は躁状態と同じグループに入れる傾向があります。(治療的には妥当なところでしょう。)原因は(2)と同様です。なお、この状態は自殺に結びつきやすいので要注意です。
- (4)幻覚妄想状態:この場合、幻覚が幻視である時と幻聴である時ではその臨床的取り扱いが大きく変わります。幻視と妄想ががある場合はほとんどは、脳の問題です。意識障害によるものか、脳器質性のものか徹底した検査が必要です。幻聴と妄想普通は被害妄想の場合は、臨床的に問題になるのは、やはり統合失調症の時でしょう。他に認知症関連、物質乱用関連などもあり得ます。普通は心因性つまり、ストレスによる反応としては考えがたいところでしょう。一部の人格障害などに伴う場合にあり得ないわけでは無いとされていますが。
- (5)認知症状態:これは後天的知能の低下と定義されます。軽症で取りつくろいが上手な場合はわかりにくい場合があります。認知症があると考えられる場合は大概ありますが、無さそうに見えてもある場合がありますので、注意が必要です。簡易知能検査は迷ったら行うべきです。(相手が怒り出さないように上手に。)
- (6)錯乱状態:最近は意識障害に幻覚、妄想、興奮などを伴う場合、せん妄状態などの別称に近い使いかたをすることが多いようです。要は、意欲は高進し、不穏(落ち着かない)であり、感情、思考内容は次々に変化し、思路(考えの筋道)もまとまらない場合を呼びます。ですから、統合失調症などでもこのような病像を示すこともありうるわけです。
- (7)他に心気状態(些細な不調にこだわり、執拗にそれを他に訴える)、通過症候群、緊張病症候群、神経衰弱状態などを類型として挙げる医師も多いと思います。
最近、精神症状を要素心理学的に各要素に分けてそれぞれを評価し、最後に全体としてどの状態像の類型に当てはまるかを評価する(2つの類型の中間の場合もあり)という精神科的診断の基本技術をおろそかにする医師もいますが、臨床的には非常に能率の悪いことになるでしょう。