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「聴診記:アルツハイマー病 取り繕い反応が特徴」(2008年2月掲載)

下村 辰雄(リハビリテーション科):秋田魁新報 2008年2月25日掲載

県立リハビリテーション・精神医療センターのリハビリテーション科が管理する認知症病棟には、最近6年間で903人の患者が入院した。入院患者を大別すると、変性性認知症が605人、血管性認知症が166人などとなっている。変性性認知症のうち、75.4パーセントをアルツハイマー病が占め、認知症の原因で最も多い。

アルツハイマー病はゆっくり進行する。多くは記憶障害から始まり、続いて見当識障害、言語障害などの認知機能障害が生じる。

記憶障害は老化による正常な物忘れと異なり、経験自体を忘れる。忘れたことも忘れてしまい、物忘れをしていることを自覚できない。食後には献立だけでなく、食事したこと自体を忘れてしまう。来客があって談笑したのに、客が帰ると名前だけでなく、来客のあったことさえ忘れる。財布などをしまった場所を忘れて大騒ぎしたり、同じことを何度も何度も聞いたり言ったりもする。進行すると、数分前の出来事さえ全く覚えていないようになる。

見当識障害とは、今がいつか(時の見当識)、現在どこにいるか(場所の見当識)、その人が誰か(人の見当識)が分からなくなる。明るいうちから雨戸を閉めたり、真夜中なのに自分が目覚めると朝だと思い、電気をつけたり、洗顔、着替えをする。自分の部屋やトイレの場所が分からず、自宅で迷ったり、自分の家であることが分からずに家に帰るなどと訴えたりする。言語障害では物や人の名前が思いだせなくなる。

アルツハイマー病に特徴的な症状が「取り繕い反応」。社会生活上、さまざまな面で破たんをきたしているのに問題がないかのように取り繕う。それらの問題に触れると、「いや、普通にやっている」「別にそんなに困っていない」「そんなこと、したことないから」などと自身の能力低下を取り繕う。この反応によって、介護保険の要介護認定の際、症状を軽く評価されてしまうことがある。

認知機能障害に加え、感情や意欲の障害、妄想、幻覚、はいかい、暴言、暴力などの精神症状や神経行動学的異常を伴うことも多く、認知症患者を抱える家族の介護負担の一因となっている。

感情障害では比較的初期に、うつが現れる。進行期に至ると周囲に関心を示さず、にこにこする「多幸」が見られる。妄想は約半数の患者に認められ、「物取られ妄想」などの被害妄想が多いことが指摘されている。財布や眼鏡など身の回りの物をしまい忘れたり、置き忘れたりしても、盗まれたと思ってしまうのが物取られ妄想。特に直接介護している身近な人を疑うことが多く、介護者にとって大きな負担になる。

アルツハイマー病が進行すると日常生活の障害が目立ち、はいかい、昼夜逆転、失禁などは在宅介護を困難にする。治療には塩酸ドネペジルを用い、進行を抑える。また、リハビリテーションを始める前には妄想やそれによる興奮を抑制するため、ごく少量の抗精神病薬を投与し、比較的安定した状態でアプローチを開始することも重要とされている。

秋田魁新報 2008年2月25日

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