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「前頭側頭葉変性症 常同行動に有効手段」(2008年5月掲載)
下村 辰雄(リハビリテーション科):秋田魁新報 2008年5月12日掲載
認知症の原因の一つに前頭側頭葉変性症がある。同症による認知症は前頭側頭型認知症、進行性非流ちょう性失語、意味性認知症の三種類に分かれる。前頭側頭型認知症は前頭葉の萎縮が目立つ前頭型ピック病、意味性認知症は側頭葉前部の萎縮が著しい側頭型ピック病によって発症することが知られているが、これらの病気も前頭側頭葉変性症に含まれる。
前頭側頭型認知症には特徴的な症状として同じ行動を繰り返す常同行動と、周囲への迷惑を顧みずにわが道をいく行動(脱抑制)がある。常同行動には常同的周遊、時刻表的生活、常同的食行動異常などがある。
常同的周遊は天候状態にかかわらず、毎日同じコースを同じように歩く。アルツハイマー病の徘徊とは異なり、一人で出掛けても戻ってこれる。時刻表的生活は毎日決まった時刻に同じ行動をする。常同的食行動異常は買い物に行くと必ず同じ物を買ったり、毎日同じメニューの食事を作ったりする。特に甘い物に固執する傾向が指摘されていて、ある場所に出掛けたときには必ずまんじゅうを買うといった事例もある。
脱抑制では食欲が抑えられずに店先の品物を取って食べたり、他人の畑に実っている作物を盗むなどの反社会的行為が見られるが、本人に悪気はない。以前、ピック病患者が万引して失職したとの報道が出ていたが、このケースも本人に犯罪との自覚はない。医療の現場では自分の気に入らないことがあったりすると、診察室などから勝手に出て行こうとする場合もある。
進行性非流ちょう性失語はスムーズに言葉が出なくなる。意味性認知症は流ちょうに話すものの、何か物の名称を挙げても、それが何かが理解できない。例えば、眼鏡を見せて「これは何でしょう」と尋ねても分からない。眼鏡だと教えても「眼鏡ですか」と、初めてその言葉を聞いたような態度を取る。患者によって、意味が理解できない言葉は異なる。
これら前頭側頭葉変性症による認知症の症状でも、介護する家族らにとって常同行動は脱抑制とともに大きな負担となっている。周囲に迷惑が掛かったり、患者自身も危険にさらされる可能性があるからだ。この場合は入院などにより環境を変える。パズルなど趣味的作業を継続して行い新たな行動パターンをつくることによって、問題となる常同行動の軽減が期待できることがある。
秋田魁新報 2008年5月12日