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精神科医は人の心の専門家なのか?(2009年8月掲載)

2009年8月

テレビを見ていると、精神科医がコメンテーターとして出演し、精神医療あるいは精神医学とは無関係な事件における人間心理に関しての意見を述べることがあります。私は、彼らの言動に批判的です。誤解を生じるおそれが強いからです。一般の方のイメージとして、精神科医は精神の病気の専門家なので人の心も全てわかっているのだろうとお考えのかたも多いようです。だから、テーマとなった事柄に際しての人間心理についても適切な意見を言っているだろうと推測する方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これは少し不正確です。第一にニュースで取り上げられる範囲の情報ではその際の関係者の心理に関する意見を言えるほどの情報の量と精度が得られるとは到底思えません。

それ以前の問題として、精神科医が人の心の専門家という前提そのものに無理があると思います。精神科医は「人の心の病気の専門家」ではありますが、人が世界中で活動することに伴う精神現象全てについて知っているわけではありません。人の中に生じる精神活動全体は複雑で多岐にわたるものであり、精神科医が心の病気の治療を通じてうかがい知ることが出来るのは、その中のごく一部にしかすぎません。精神科医が日常、診療を行う上で大切なことは不断の勉強とともに、自らの限界を知り、精神医学が万能のものではなく、人の心について、精神科医が知りうることはごくごく一部であることをいつも再確認する姿勢ではないでしょうか。

私は精神科医だから人の心は何でもわかるでしょうという分不相応な期待をいただいたときにはいつも申し上げることにしています。「私は人の心の病気の専門家のつもりです。しかし、人の心の専門家ではありません」と。

図:精神科医は人の心の専門家なのか?

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