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patient
何でも「うつ病」?(2009年8月掲載)
2009年8月
最近、精神医療では、新しい診断手法による病気の新分類が幅広く使用されるようになりました。この代表はDSM4(ディーエスエムフォーと呼びます)と言われています。この新分類は従来、あいまいな取り扱いだった精神障害の一部をより明らかに整理することが出来たり、国により、診断の基準があいまいだった点を明確にしてくれたりと多くの利点を持っています。しかし、この新分類を偏重し、有用性のみに目を向け、限界性を無視した一部の人たち(私はDSM4万能主義者と呼び、彼らを批判しています)により、現在の精神医療にある混乱が生じていると思います。
それが強く出ている分野の一つとして、うつ病の診断と治療があると思います。新分類では病気のある時点での症状にだけ注目して、その原因や発病に至る微妙な事情は無視されます。そのため、ある程度のうつ状態(元気が無くなり、気が弱くなり、仕事などが出来なくなってしまった精神状態)が生じると、簡単にうつ病と診断され、汎用される抗うつ薬を処方してみる傾向が生まれたと思います。言い方を変えると、原因から考えると別の病気としてとらえて、違う治療法を選ぶべき病状がごちゃ混ぜに治療されていて、そのためになかなか治らない事例が、少数ですが発生しているように思えるのです。
初めに述べたように、従来の病気の分類だけでは十分ではなく、新分類が精神医療をより豊かにしてくれる強力な道具になってくれる点については、私も賛成です。しかし、それだけで全て間に合うとは決して思いません。繰り返しますが、新分類は有用性とともに限界性をも持ちます。ですから、私は現在のうつ状態になれば「何でもうつ病」とする考え方は批判され、より進歩した考え方に成長して行かなければいけないと強く思っています。