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お薬の「適応」について(2010年5月掲載)

2010年5月

たまに、新聞などで、医療行為の批判として『「適応」と認められていない薬を使用し』という記事を見ることがあります。今回はこの「適応」について少し説明したいと思います。記事を読んだ読者は「とんでもない話だ。許可されていない薬を勝手に使うなんて」と思うのが普通でしょう。そのとおりだと思います。しかし、その実態は色々です。確かにどう考えても不適切な薬の使い方をした場合も当然あるでしょうが、実際は有効で明らかに患者さんの利益につながるのに「適応」と認められていないために、使ってはいけないことになっている薬が沢山あるのです。

これは制度上の壁があるためだと思います。薬の安全性、有効性を確保するために、ある薬の「適応」を決めるためには製薬会社がデータを揃えて国に「適応」と認めてくれるように申請し、国が慎重に審査して合格と認めた場合にはじめて「適応」があると認められます。つまり、ある病気や症状にある薬が十分に有効で安全であると国が認めれば「適応」があると認められたことになるわけです。

この場合、製薬会社が実際に有効な「適応」を全て国に申請してくれればよいのですが、そうはいかない事情があります。第1にこのような申請を行うためには莫大なコストがかかることが挙げられます。製薬会社は営利企業ですから、「適応」を認められてもあまり使ってもらえず、準備のための費用が得られる利益よりも大きい「適応」を次々に申請すれば倒産の危険を招くことになります。当然、慎重な判断が必要になります。第2に新しい「適応」を獲得するためには長い年月がかかることも挙げられます。外国ですでに長く使用されていて有効で安全であることがわかっている薬でも日本におけるデータが揃うまでは「適応」でないために使ってはいけない状態が続くわけです。それ以外にもデータそのものがなかなか集められないなどさまざまな事情があり、実際は有効で安全性も十分なことがわかっているのに使ってはいけないことになってしまう薬が出てきてしまうわけです。

私は、このような現状が全て悪いと申し上げる気持ちはありません。ただし、このような事情により、患者さんに有益なので使ってあげたいけれど、制度上、使ってはいけないことになっている薬が一部存在する現状に対してご理解いただきたいと思います。特に、外国で使用実績があり、日本でもAという病気については「適応」が認められ市販されているが、実際はBの病気にも非常に有効で安全なことがわかっている。しかし、「適応」が無いのでBの病気には使えない。このような時に強いもどかしさを感じます。冒頭にもどりますが、はじめにあげたような記事を読むと、もしかしてそのようなケースに使ったのかもしれないなと、つい、想像してしまいます。今度、このような記事を読んだら、「もしかすると、制度上の限界によるものかもしれないな」と思い出しながら読んでいただければ幸いです。

図:お薬の「適応」について

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