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目は口ほどに物を言う(2015年9月掲載)
「目は口ほどに物を言う」という言葉があります。昔の表現なので若い人は知らない人が多いでしょうが。この言葉は日常の人間関係を考える上で非常に大事な意味を含んでいますので、知らない方はこの機会によく理解しておいた方がお得でしょう。
人がコミュニケーションをとる場合、普通は言葉の内容が大きな意味を持つと思われがちです。確かに、公的な会議で記録を全て取るような場合はそうでしょう。しかし、毎日の人間関係ではどうでしょうか。実際は言葉以外の「コミュニケーション」によるメッセージのやりとりが大事なのです。普通の人間関係では、言葉の内容以上に、言葉の調子、話し方、表情、態度などの方が大きな意味を持ちます。
例を挙げて具体的に考えてみたいと思います。演技の上手な俳優さんと下手な俳優さんはどこが違うのでしょうか?話している台詞(せりふ)は台本に書いてあるとおりですので同じなはずです。しかし、ドラマを見ている私たちは「この俳優さんは名優だ」とか、「この人は大根役者(演技の下手な役者に対する昔風の言い方)だ」とか評価します。
実は、我々が俳優さんを見て、この人は演技が上手だとか、この人の演技はひどいもんだなどと評価するのは、無意識のうちに、俳優さんが発信している「非言語的メッセージ」を受けとめて、それと言葉の内容が一致しているか、そのドラマの場面、話の流れと一致しているかを計算し、それが一致していると「名優だ」、ひどくはずれていると「大根だ」と評価しているのです。
普段の人間関係でも同様のことは起きています。だから、「言葉は丁寧だが嫌みな感じだ」などと思うときには、我々が無意識的に「非言語的メッセージ」を受けとめて言葉の裏に隠れた不快な意味を受けとめて、嫌な思いをしていることが多いと思います。
もっとも、この「非言語的メッセージ」、「非言語的コミュニケーション」は非常に微妙な情報伝達なので、受けとめる側の態度、特に感情状態によりその解釈が変わります。具体的に言うと、こちらがイライラしていると、相手が言った普通の言葉が何か特別の嫌がらせではないかと勘ぐってしまったりすることがあります。
また、人間関係のコミュニケーションはお互いの気持ちの交流ですから、こちらが不機嫌だとそれが相手に伝染してしまい、お互いに不機嫌となり喧嘩になったりすることもあります。(昔からの言い回しで「売り言葉に買い言葉」、「魚心(うおごころ)に水心」などという表現があります。興味がある人は調べてみて下さい。)
ですから、相手がどのような「非言語的メッセージ」を発信しているか考えてみることも意味がありますが、自分が無意識に発信した「非言語的メッセージ」が、話がこじれた原因の一つではないかと考えてみることも大事かもしれません。(話がこじれる時には両方に原因があることも多いのですが。)