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お年寄りの引っ越し(2016年6月掲載)

お年寄りの引っ越し(硬く言うと高齢者の転居となりますが)について常日頃、考えていることをご紹介します。

「お年寄りの引っ越し」について話題になるのは、なんと言っても「子どもが住んでいる土地へ移る」場合でしょう。子ども達が順調に成長していき、独立する。これはめでたい事であり、誰しもそれを望む目標でしょうが、いつも、近くで独立してくれる訳ではありません。子どもさんが東京の会社あるいは全国展開の会社に就職し、関東などに自宅を作ってしまうケースも多いようです。このような場合に「お年寄りの引っ越し」の問題が生じます。

両親とも80歳を過ぎて、片方が死去し、女親あるいは男親が一人暮らしになったときによく、「引っ越し」問題が生じます。モデル事例を作ります。「父親が死去し、秋田に一人残った母を、埼玉に住む息子夫婦が心配し、埼玉で同居するように勧めても絶対にウンと言わない。そのうち、腰を痛めて歩くのが不自由になっても引っ越しを受け入れない」、こんなケースがあったとしましょう。

この場合、息子さんとそのお母さんとの話合いの最中に喧嘩になることもあります。善意の息子さんが道理を説いて熱心に勧めてくれてもお母さんが納得しない場合には、息子さんが怒ってしまうこともあるようです。

個々のケースでは色々な事情があり、様々な人間関係があるでしょうから、他人の私が口をはさむつもりは全くありませんが、このような場合に精神科医から提供できる豆知識があるので、ご紹介したいと思います。

このような場合に交渉する前提としてぜひ理解して頂きたいことは、高齢者では「脳も老化していく」ということです。老化は全身に表れる現象であり、脳も例外ではないということです。実際に脳の画像撮影をしてみると、脳の病気がない健康な高齢者でも若者よりも明らかに脳は萎縮しています。これは自然現象です。同時に脳の情報処理機能も落ちます。その結果、新しい環境に慣れていく能力も低下していくのです。新しい住居、新しい生活習慣、新しい地理、そして新しい人間関係、転居すれば、これらの全てに慣れて新しい自分の生活パターンを作っていかなければなりません。若い人には何でも無い、これらの事が高齢者ではきつく困難な作業になります。内気で、長年保守的で変化が少ない条件で安定して暮らしてきた人ほどハードルが高く,新しい環境に移ることに抵抗を感じるでしょう。失敗する可能性も増すでしょう。

ですから、お年寄りが都会に居る子供達に強く誘われてもなかなか腰が上がらないのはある意味で当然な事でもあるのです。

先ほど、強調したように、個々の人間関係に口をはさむ気はまったくありませんが、押し問答で口論になる前に、高齢者では若者には想像できない「脳の問題」も生じうることをご理解頂きたいと想います。参考にして頂けたでしょうか。

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