患者の皆様へ
patient
脳の病気、心の病気、脳と心の病気(2016年11月掲載)
精神科にかかっている患者さん達と話していて、時々気になることがあります。それは、「病気になったのは、何か、自分が間違ったことをしたためだ」と自分を責める傾向があるからです。また、家族の皆さんにも、「自分がチャンと育ててあげられなかったからだ」と自分を責めている人がいます。
私は、そのような考えを聞く度に、非常にお気の毒だと思い医学的説明をすることにしています。というのは、精神科に長くかかる必要のある病気の多くは脳そのものの病気であるからです。心の病気の人、脳と心の両方が関与する人もいらっしゃいますが、どちらかというと、少数派です。
考え方によっては、脳も内臓の一種ですから、内臓の病気という見方も出来ます。内臓の病気ですから、ご本人が何か間違ったことをしたために病気になったというよりは単に「運が悪かっただけ」ということが非常に多いのです。精神科の病気は複雑で原因が十分にわかっていない病気が沢山あります。そのために、お医者さんに原因について聞いても「まだ、十分にわかっていません」と言われることも多いでしょう。そうすると、ご本人が悩み、真面目な人ほど自分を責める傾向がより強くなるのかもしれません。
治療法について触れます。「脳の病気」である多くの場合、脳という内臓が不調になっていれば、脳そのもの状態を整える必要があります。よく、「お薬をキチンと飲んで、無理をしないで下さい」と指導されることがありますが、それはこのような理由があるからです。同じ内臓の病気なので肝臓病や腎臓病の治療の時のように内臓(この場合は脳)の負担を減らして内臓を整えるお薬を飲む点が共通しているとの見方も出来ると思います。別の言い方をすると、肝臓や腎臓の病気が「根性」や「気力」などでは治らないのと同様に、脳の病気も「根性」、「気力」は無効で、お薬でコンディションを整えることが大事になることになります。
ですから、「とにかく、お薬をキチンと服んで下さい」と指導されている人は、まず、薬をキチンと服むと同時に、「どうやら、私の病気は脳の病気のようだから、少なくとも、自分を責める必要はないな」と少し安心してよいかもしれません。そして、ご家族も、「たまたま、病気にかかったのだ。治るまで、出来るだけ協力してあげよう」と考えるだけで十分で、ご自分を責める必要は無いと思います。
精神科の病気の療養は、ご本人にとっても、ご家族にとっても非常に苦労の多いものです。不運はいくら嘆いてもよいと思います。しかし、ご自分を責める必要はありません。「運が悪くて病気になってしまった。災難だ。しかし、自分なりに病気をよくしようと努力している。これで十分だ」、そう割り切って、治療に専念していただきたいと願っております。
どうぞご理解下さい。